家具はヘルシンキの家具でしかもそこの特定のおばさん(?名前を忘れた)から必ず買うという人がいる。インターネットで世界中どこでも繋がれているご時世、わざわざその”場所”でその”人”にこだわって購入するという事はそれを欲しない人に取っては信じられない事だろう。しかし、そのクライアントにとっては家具を買う(デザインを買う)という行為は自分自身の思い出を作るという行為で、そのもの自身とそのものを取り巻く環境(事)を共有する事なのだと思う。(家具以外のなんでもないものはネット販売や100円均一で買われたりする)
ヘルシンキまでは行かないけれど、僕にも買う場所にこだわるものがある。革製品である。
昔は革製品が嫌いだった。生きていた頃の事を想像して気持ち悪くなるのだ。でも大人になってそれがひとつの製品となって意識から切り離されてからは少なからず持てるようになった。
何年か前から革製品を買うのはソメスサドルと決めている。ソメスサドルは北海道の砂川市にある。札幌から旭川までのちょうど中間地点、といってもどちらからも2時間近くかかると思う。札幌や旭川の仕事の折にちょっと脚を伸ばして たいした買い物をする訳でもないのに、今年も春と秋に2回も来てしまいました。
千歳空港から車を走らせて高速道路を降りてしばらく走ると、芝生を敷き詰めた平原に煉瓦を積み上げた外観に一棟一棟傾斜の違う屋根のシェーカー風の建築が並んでいる砂川ファクトリーが見えてくる。玄関には馬の銅像が建っている。まずこの景色がすばらしい。そしてこの環境の中で作られているものとそれに関わる人の空気が伝わってくる。このショールームはいつも静かで、ゆっくりとした時間が流れる。店の人も付かず離れずで製品について聞けば丁寧に製品の説明をしてくれる。この清楚な空気までも持ってかえれそうな気がするのです。
普段僕たちは、生活する場所にいながら、(金額は別にして)買おうと思えば世界中のどんなものでも手に入る時代ですが、結局、簡単に手に入ったものは大切にしない。ものがものとしてあるのではなく、そこに作られた者の想いとそれを使う者の想いというようなものが込められる事によって、ものを大切にするという感情が生まれてくるのではないかともうのです。ものを買う時の自分自身の状況(誰とどんなふうにして)も含めて思い出を僕はいつもソメス砂川ファクトリーで買って帰るのです。
実はそのソメスサドルのショップはmoonbalanceの青山事務所の裏にあるんですが・・・。
(辻村 久信)