ふだん竣工写真等記録的な写真はもちろんの事、空間を撮っていただく時はできるだけありのままに撮っていただくよう撮影者にはお願いしています。
それでも、出来上がる写真は、撮影者の個性がありますから実際の空間とはやはり違います。 空間はあくまで被写体で、表現されたものは"写真"という作品ですから、空間が兎や角言うものではありません。
インテリアデザインのダイナミズムは「今そこにある事」、体験者と同じ有機的な五感を持つ事であると思います。
この五感で感じる事でインテリアデザインの良し悪しを評価しなければなりません。
メディア等をとおして魅力的な空間は、視覚だけで感じるフォトジェニックなもので、実際に体験してみると"感じ"が違うのはそのせいです。
「祗園 日 NITI」は、お茶屋のDNAを持つ木造建築をできるだけそのままの形で残しながらミニマムな形状の素材を挿入する事で、有機的でモダンな"今"の空間にしつらえています。
そこにある時間を経てきた柱や梁の構造物が空間をしきり、直接手に触れる事のできる無垢のカウンターや家具がシンパシーを刺激し、手漉き和紙を透した光りが空気そのものを浄化してくれています。
人の手のかかった、想いの重ねられた空間です。
写真では見えない事、それがこの空間にはあります。
(辻村 久信)