曾祖母のかき氷機

2010-09-17

crashice.jpg

曾祖母がまだ元気な頃、菓子屋をしていた。店は町の三叉路に面していて、おかきの量り売りのガラスケースと進物の箱が積み重ねられた棚があって、その奥にデコラのテーブルとパイプ椅子の小さな空閑があって、常連の客に御茶とお菓子を出していた。

曾祖母の家に行くとお菓子は食べ放題で、いつもそこに座ってTVの再放送のアニメなんかを見ていた。

夏場は、どこから持ってくるのかわからないが手動のかき氷機が出現し、毒々しい赤や黄色のシロップのガラス瓶と共に魅力的な光線を発していた。もちろん食べ放題であるからいつも僕の舌は真っ赤に染まるのである。

曾祖母も祖母も、昔祇園の花柳界にいたという。それがどうして此処で菓子屋をやる事になるのかついぞ詳しく聞いた事がなかったが、聞かせてもらったのかもしれないがそれはまだ小さかったので、よくわからなかったのだと思う。でも、曾祖母は独特の花街の言葉を話し、イナセな気っ風良い京女の見本の陽な人だったと記憶している。

シャカシャカと小気味良い音を立てて削られる氷、その雪山を何度かやさしくおにぎりを握るように固める少し曲がった細い指。「信ちゃん、お母ちゃんにはないしょどっせ」

かき氷機のすぐ横でデコラトップのテーブルに顎を乗せるようにして待つ僕は、氷の塊を雪に変えていく魔法のような機械に羨望の眼差しをおくっていた。

おばあちゃん、エメラルドグリーンの氷削り機には鳥のマークが付いてたよね、「SWAN」だったよね。

(辻村久信)

月別記事一覧Monthly Archives