金沢/高岡の翌日、その足で次は関東へ。
藤沢の鎚起職人/新木場の材木屋/浅草の木彫り師の3カ所を巡ります。今回はクライアント様にもご同行頂きました。
まずは、藤沢の鎚起職人の工房へ。鎚起とは、金・銀・銅・錫などの素材を鎚(つち)で打ち起こす、金属工芸の技術の一つです。一枚の金属板を大小さまざまな鎚やタガネを用い、焼鈍を繰り返しながら、打ち延ばし・打ち縮めという鍛金の技術を駆使して仕上げられたものです。それを幾度となく繰り返して形を求め想う形に近づけていき、肌合いをととのえていきます。
今回はアルミ板を使用し、緩やかな曲線を持つ什器を製作しています。
クライアント様にも鎚起体験をして頂き、果てしない作業工程と職人のものづくりに対する想いを肌で感じて頂きました。
次は新木場へ移動し、外部看板で使用するケヤキ板の検品です。
今回巡り会ったケヤキは樹齢350年・茨城産のケヤキ。20年程前に伐採され、長い時間をかけて天然乾燥されていました。原木の大きさは高さ30m(ビル10階相当)、幹の直径は1m10cm程の巨木。ケヤキは"広葉樹の王様"と呼ばれるほど高価なもので、これほどの巨木はとても希少価値があります。きちんと手入れをしていけば最低でも300年は保ち続けます。製材後、工場の中はケヤキの良い香りが辺り一面に漂います。
最後は浅草へ移動し、木彫り師の松本彫刻さんへ。
松本彫刻3代目松本孝夫さんは江戸を代表する木彫り師で、今回は柳柄の組付彫刻をお願いしています。"組付彫刻"とは障子に彫刻を組み入れることからそう呼ばれています。木彫り師は、神社仏閣の"建築彫刻"や"仏像彫刻"からはじまり、その後"欄間彫刻"や"組付彫刻"などといった身近なものへと発展・進化してきました。しかし、現代では需要も少なくなり、木彫り師の数も年々減ってきています。上等な木曾ヒノキの板材を3種類の彫刻刀を駆使し一つ一つ丁寧に手彫りしていきます。オリジナルの柳柄を立体的に彫り起こしていく術は言い換えれば、代々受け継がれてきた"伝統"と木彫り師としての"誇り"そのものであります。
今回の見学ではクライアント様にもご同行頂き、ものづくりの背景を肌で感じてもらうことができました。職人のものづくりに対する姿勢や想いを感じることで、できあがったものに対する愛着が変わります。逆にクライアント様のプロジェクトに対する強い想いが職人に伝わることで完成度が変わってきます。これがものづくりの理想であり、原点であると改めて感じることができました。今回ご協力頂いたメーカー・職人の方々、またお忙しい中遠方まで足を運んで頂いたクライアント様には心よりお礼申し上げます。
(moon balance/吉里 秀則)