NOTES

渡月荘金龍は、100年を優に越える歴史を持ち、修善寺の中でも名旅館の一つに挙げられる老舗である。

この桂川の清流の傍らに建つ木造の建築は、その生きてきた永い年月を物語る様に「場」に馴染み、そのそこはかとない奥行きは、現代如何なる資金を投じようと、また最新のテクノロジーを持ってしても到底表現することはできない。

時間の流れとは、人間の行為そのものを否定する力を持っている。

しかし、また一方で数々の時代に適応するべく増改築を繰り返したその空間の構成は、

無秩序に増殖した結果、本来の木造建築の持つ美しさを色褪せてしまったかのように思われる。

他にはない木造建築という財産を利用し、現代の日本人が日本人として安らげる旅館を創ることはできないか？

それは、日本古来の建築様式をそのまま具現化するのではなく、

本来その文化基盤を成す精神性を継承しつつ、

現代人の美意識やテクノロジーと融合し再構築することにある。

そして、それがこれからの新しい伝統となるように・・・。