NOTES
静寂の窠/砂町の家
東京は不思議な街です。ブランドの林立する銀座から少し離れただけ下町の風情があって、人々の暮らし方もかわります。
東京三大銀座(荏原銀座、十畳銀座)のひとつである砂町銀座は、にぎやかで下町の活気に満ちあふれています。
そんな砂町銀座のすぐ近くに、仲の良いご夫婦の二人だけの小さな住宅をデザインしました。
この砂町銀座の近くで育ったクライアントにとって、"おふくろの味"は商店街のお惣菜の味であると言われるほど、ここは近隣で暮らす人達の台所の役割も果たしています。
プランニングの当初は「料理は作らない」という言葉から、キッチンを設けないおもいきったプランから始めました。キッチンが無いというだけで、住宅の平面計画はおもしろいほど変わります。結局は、様々な可能性を考えて最小限のキッチンを用意しておく事にしました。
暮らしは、変わっていきます。変わっていくという前提で住宅は、その暮らしを受け止める包容力のある抽象性を持ち合わせてなくてはなりません。
ここでは、若い夫婦の為の新しい生活のスタートラインを創るだけに留めました。
時間を超越したソリッドな素材で、ニュートラルでシンプルな空間を創る事と水平方向に閉じ、垂直方向(空)に向けて開く事で、光と風を取り入れながら、静寂という個性を持ち合わせる事になりました。
それは、砂町銀座の喧噪からそう遠くない距離にあるこの"場"にとって、ちょっと違和感を感じるほどの不思議です。
幸せな家庭をデザインする事は、幸せな事です。
結局、我々デザイナーはクライアントの想いを表現する"イタコ"のようなものであると思います。そこにある愛情に耳を澄ませば、カタチになって光になって空間を創ります。