NOTES
弾けようとする瞬間、触れる前のわずかな距離
この店は、広島の中心街から少し離れたところにあるテナントビイルの最上階にあり、テラスを含むテナント3軒分の不規則な空間が迷路のように交差している。
週末はクラブとして利用することを前提に、普段はバーとして20代の比較的若い層の遊び場として計画された。クライアントにとっても実験的な業態であり、さまざまな方法でローコストを目指した。どこにでもある素材、使い古された工法を用いながら、シンプルに仕上げ、しかしながら、その簡素な空間の中に密度の高いデザインが存在する。
またこれは、意図したものではないが、ドローイングに向かうとき頭の中を離れない言葉の数々が空間のディテールを決定づけた。
「弾けようとする瞬間」「触れる前のわずかな距離」「胸をしめつけられる届かぬ過去」「繰り返される冷たい光の接吻」......などなど、次から次へと取り留めもなく浮かび上がる言葉の断片が形をつくろうとしていた。そのはかなく危ういイメージは、唐突に壁に取付けられた天使の照明であり、アルミニウムと真っ白な通路であり、淡い黄緑色の光壁であり、等間隔に置かれたクリオネのように発光するテーブルだったりする。
それはある私的なイメージの相対として、この空間にちりばめられた。