NOTES
もてなしの和空間
"師の旬法に泥むべからず"蕪村の師、早野巴人の言葉である。「師匠のいうとおりにしてはいけないよ」と言っているのである。なんと無責任な言葉であろうかと思われるかもしれないが、さもありなん。"師匠と同じ事をしてもだめだ、師匠を超えてゆけ"という意味を含んだ言葉だそうである。
私たち建築に携わる者の師の句法とは、木、土、石などで構成された日本の伝統建築であると思われるが、それをそのまま真似るのではなく、その伝統を打ち破り、その伝統となるべきスタイルを創り出した先人たちの精神性を、今の時代に今の時代の力を借りて再構築することができないか。そしてそれが未来の伝統となり得ないだろうか。それが私の目指すデザインであり、自分自身の表現技法と考えている。
「茶茶」は、和食を主とするダイニングバーである。比較的若い世代に、新鮮な素材と日常の中で受け継がれてきた「おばんざい」をさりげなく提供することをテーマとして計画された。古いテナントビルの2階にある約60坪程度のこの空間は、もともと複雑な構成であったができるだけそのまま利用して天井や床の高低、通路の幅の狭さといったデメリットをメリットに変換する、たとえば相手の力を利用し、技をかける日本古来の武道のようなデザインを心がけた。客席A・B、カウンター席、茶室、ウエイティングバーといった五つの空間から構成され、そのとっきどきの客の気分を大切にし、接客のシチュエーション変える事が出来る。
全ての空間に軽やかな色と新しい素材、柔らかい光が漂う"さわやかでなにげないもてなしの和空間"ができたと思う。