MATSU

PHOTO : Nacåsa & Partners / 繁田論

NOTES

高密度な「素」の空間

東京でも花街の色を残す神楽坂に「松」はある。

13坪ほどの小さな場に与えられたのは「おでん」というテーマ。庶民的なこの食材を昇華させ「江戸の仕事の粋」を纏わせる事。

時間の経過とともにより味わいと愛着を感じる事のできる「深さ」を持った高密度な「素」の空間になる事。

一筆描きのような勢いで、できるだけ少ない素材(木と紙と土)で空間を構成する。カウンターや床はもちろん柱や梁、建具組みに至迄すべて木材は?にする。余白を表現する白壁は本漆喰、神楽坂の色気のひとつである「ハイカラさ」を表現するソリッドな赤煉瓦を床のポイントにする。

空間を外部と切り離す光り障子は、本来障子を左右に引き分けて障子の中央が開く「猫間障子」にヒントを得て、これをスライドさせる事によって開口率を変えられるようにした縦障子。これは換気上の設備要件をクリアーする為に考えたものであるが、動くという事で空間に軽快さを与えると共に、光を制御する役割も持っている.

この障子に張られた唐紙は、江戸唐紙の伝統的な文様である「風季寄せ」を胡粉を使って刷り込んだ。胡粉を使う事で紙と馴染み、光の強弱で陰を創り美しい奥行きを醸し出している。

唯一、装飾的に思われる矢羽根彫りの壁面も無垢材の「塊」を印象付けその凹凸が削られていく時間の過程を思い描きながらデザインしている。

削り取る作業の到達点としての「無」というものがあるように思っていた。

しかし、それは何度も繰り返される作業の積み重ねによって純化していく過程にすぎないのではないかと感じている。それがロジックを纏わない「深さ」の表現であり、日本文化に共鳴するオリジンではないかと考えている。

SPECIFICATIONS

所在地
東京都新宿区神楽坂4-3-2近江屋ビル4F
4F 4-3-2 Kagurazaka,Shinjyuku-ku,TOKYO
撮影
Nacåsa & Partners / 繁田論
平面図