行雲流水=デザインの具合
/板蕎麦 山灯香 三宿店

kou-un ryu-sui= balance of design/ Ita soba santhoka in misyuku

PHOTO : 繁田諭写真事務所 繁田諭

NOTES

日本の骨董家具とJAZZの流れる空間で板皿に盛られた山形板蕎麦を頂くスタイルで多くのファンを持つ「板蕎麦 山灯香」の改装です。

現状の雰囲気を継承しながら、働く人と客席の境界をできるだけ無くし、「オープンな厨房にすること」を中心に「今」という活気を取り戻す事を念頭において計画しました。

建具で閉ざされていた厨房を開放し、厨房の雰囲気を客席にまで滲み出てくるように昔から台所「窶(くど)」でよく使われていた「舞良戸」で客席を囲んだ。更に蕎麦の茹で上げ場と客席の間は無双窓にして、動きのある視線制御にした。新しく付け加える唯一の素材の陶板タイルは、自然の焼き斑を松灰を使って表現して、「新しさが際立たないよう」空間に添えるように挿入した。

「行雲流水」は、空行く雲や流れる水のように、深く物事に執着しないで自然の成り行きに任せて行動するたとえとされます。

元は、北宋の詩人 蘇軾が「文を創る時の心構え」を示したもので、「文を創るにあたっては、行雲流水のようでなければいけない。初めから決まった形があるのではなく、自然の成り行きに任せるのである。行くべきところに流れゆき、止まるところで止まるのである。」と云っています。

成り行き任せのところのみが解釈されますが、私はこの、「行くべきところに流れゆき、止まるところで止まる」為には、単に自然の成り行き任せだけでは在らず、創る人と描くという行為に「良い文章にしようという意思」が介在する事が重要であると感じます。

その場所とその時代、人や素材との出会い、コトの進む速度や予算、職人の感覚など不確定な要素が混沌とする現場に身を委ねながら、それらが向かう流れにそっと手を添えるくらいで「行くべきところ」へ導く行為が日常使いの飲食店の改装におけるデザインの具合では無いかと思います。

※「舞良戸」とは、細い桟を等間隔に取り付けた板戸のこと。 この細い桟のことを舞良子と呼んでいる。 この舞良子を等間隔に並べて取り付けてあり、室町時代から書院造の建具として使われてきた。 引き違い戸と開き戸の両方で使われてきた建具であり、廊下の間仕切りや縁側の扉、台所「窶どくど」の水屋の建具で見ることができる。

※「無双窓」無双連子窓の略。 無双とは表と裏が同じこしらえのものをいい、同じ幅の連子を前後に並べる形式の窓を無双(連子)窓という。 外側の連子は固定し、内側では同形式の連子の引き戸を設けることで、内側の連子を少し動かせば外側の連子の空隙を開閉することが可能となる。

※松灰とは、植物の灰を原料とした灰釉(かいゆう)という釉薬の一種です。古くは平安時代から器や茶器などに使用されてきました。装飾の役目をはたしながら水や油分から陶器を保護します。松の灰を用いて、一枚一枚職人が手作業でつくりだす豊な表情は工業製品の枠にとらわれません。

SPECIFICATIONS

クライアント
フードゲート株式会社
WEBSITE
https://www.foodgate.net
所在地
東京都世田谷区太子堂1-4-35 ニシムラアートビル1F
設計
辻村 久信 高野 菜々絵
協力
設備設計(電気・防災) 柘植電気 柘植
設備設計(照明計画) ウシオライティング 山田
設備設計(空調・換気) 株式会社シー・イー・アール 若林
設備設計(厨房) ホシザキ東京 大屋
撮影
繁田諭写真事務所 繁田諭
工事種別
部分改修
用途
飲食店舗
計画面積
98.55㎡
工期
2023年10月17日〜2023年11月14日
※2023年11月17日 開業
施工協力
空調換気設備 株式会社シー・イー・アール 若林
給排水衛生設備 株式会社原嶋住設 原嶋
電気・防災設備 株式会社柘植電気 柘植
厨房機器 ホシザキ東京 大屋
照明器具 株式会社柘植電気
左官 有限会社大木左官工業 大木
クロス インテリアシロー 小野塚
塗装 イケダ工業 池田
木製建具 種村建具木工所 種村
木工大工工事 株式会社山越家 山越
タイル工事 有限会社帥タイル 帥
タイル 織部製陶株式会社 原
家具 株式会社山越家、マジカルファニチャー
マテリアル
外部床 松灰陶板タイル
床 既存フローリング
店内壁 既存壁 左官仕上げ、浅黄土縄たたき仕上げ
厨房内壁 ケイカルt15 陶板タイル貼り
店内天井 既存下地、織物クロス
厨房天井 PB12.5下地塗装仕上げ AEP
陶板タイル 信楽焼(緋色タイル+空釉)
カウンター天板 t50mm モルテックス
舞良戸、無双窓 ヒノキ無垢材、古色木目染色塗装
平面図