NOTES
田舎の餅屋=本店を想起する素朴なデザイン
伊勢神宮は、江戸時代から「お伊勢まいり」に訪れる多くの旅人を迎えてきました。全国各地から伊勢の地をめざした旅人たちは、道中に手早く食べられ腹持ちが良いお餅を好んで食べたといわれています。桑名から伊勢までの参宮街道は別名「餅街道」とも呼ばれ、街道沿いには「おかげ参り」の旅人をもてなす道中食として親しまれた名物餅があり、現在も多くのお店で楽しむことができます。へんば餅もそのひとつ、安永四年(1775年)に参宮街道宮川のほとりに茶店を設け餅を商い初めたのがへんばや商店の始まりです。小俣町明野の本店の他工場に併設した宮川店 伊勢市駅前店 に加える「へんばや商店おはらい町店」は、三重県伊勢市の宇治のうち 伊勢神宮皇大神宮(内宮)の宇治橋前から五十鈴川に沿って続く「おはらい町」にあります。この通りは、伊勢特有の切妻・入母屋・妻入り様式の土産物店や銘菓の老舗、旅館が軒を連ね、神宮道場や祭主職舎などの歴史的建造物もたくさんあり「内宮おはらい町まちなみ保全地区」にも指定されています。
建築デザインは、周辺環境に共鳴する計画とし、外壁は、杉の赤味板を張り付けた外囲い(ささらこ下見板張り)でおおわれ、一階の軒庇の先端には「軒がんぎ板」という垂木の鼻隠しがすえられ、二階部には「張り出し南張り」と呼ばれる外囲いが設けています。
屋根は、「伊勢瓦」と呼ばれる伊勢特有の瓦で、鬼瓦はへんばや商店の屋号を軒丸瓦にはへんば餅を紋様化したデザインを設えている。また、軒先看板は江戸時代の象形看板の様なへんば餅を連想させる突き出し看板にし通りに対する視認性を妬かめる様にし、先代の無垢板に看板も洗いにかけて瓦の上に餅をイメージする漆喰細工の上に鎮座させた。
フルオープンのお店は、気軽に立ち寄れる「敷居の低い」峠の茶店をイメージしている。ただし、三和土の床と杉と土壁などの素朴な日本古来の素材を職人の丁寧な技によって構成され、素朴で安価な素材を丁寧な職人技で磨くことによってできる上質でさりげない空間を目指した。
有機的な丸いフォルムのショーケースと会計カウンターは餅つきの臼のように欅で作られ、階段の手摺りを支える木彫りの取り付け部材や藁土壁につけられた立体整形の手漉き和紙の照明器具など、「餅」から連想する形をテーマにデザインしている。
一階の梁間に設られた光幕天井など、テクノロジーをできるだけ感じさせない様に照明器具を基本見せない計画にしているところも、時代性を感じさせない「昔ながらの...」を想起させる要因となっている。
混凝土を磨き作られたおくどさんの様なカウンターに置かれたセルフサービスの接茶機。肩肘張らず、自由な雰囲気、しかしお茶の味は本物、餅にぴったり合う(と思う)緑茶、焙じ茶、玄米茶は今回の出店に際して開発された。
情報を的確に伝えるグラフィックインフォメーションは、江戸時代の薬屋の内看板の様な額縁をモニターにして商品案内をするアニメーションにしたり、本店周辺の小俣町明野の四季折々の田舎の風景の映像を天井板に隠されたプロジェクターから小屋組から吊るされた「蚊帳」に投影させ、ゆらゆらと夢の様に霞む景色をぼんやりと眺められる様にして、テクノロジーを感じさせないデザインとしている。また、この2階休憩処にある蚊帳に映し出された風景は、本店への郷愁を誘って、借景としての役割を果たしています。
すべては「へんば餅」に繋がるまさに素朴なへんば餅の様な空間で、参宮街道宮川のほとりで創業された茶店を想像させる様な環境です。
SPECIFICATIONS
- WEBSITE
- https://henbaya.jp
- 所在地
- 〒516-0026 三重県伊勢市宇治浦田1-149-1
1-149-1 Ujiurata, Ise City, Mie 516-0026 - 撮影
- 繁田諭写真事務所/繁田諭
- 平面図